人間の適応アルゴリズム理解の実験的解明

寺田 和憲 (岐阜大学)
山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大)

情報技術の進歩により人がコンピュータと協調的に仕事を行う機会が増えている.ユーザに対して適応するシステムである「ユーザ適用システム」を実現することは,HCI,HAI,人工知能の主要研究課題の一つであるが,そのようなシステムの設計指針は示されていない.また,人-コンピュータの協調作業において人がコンピュータのアルゴリズムをどのように理解するかについての認知モデルの研究は十分になされていない.

本研究の目的は,人–コンピュータ協調タスクにおいて,人がコンピュータのアルゴリズムを理解する際の認知過程をモデル化することである.そのために,最も簡単な人–コンピュータ協調タスクである協調記号合わせゲームを用いた.このゲームでは,コンピュータは人に適応する振舞いを生成し,人はその適応アルゴリズムを同定することを求められる.具体的には,最も簡単な適応アルゴリズムとして知られている MRU (most recently used)アルゴリズムを実験参加者がどのように理解するかを調べた.MRUアルゴリズムでは,コンピュータはユーザの最後の入力をそのまま出力する.MRUアルゴリズムは適応ユーザインタフェースを含む有用なインタラクティブソフトウエアを実現することに貢献してきた.MRUアルゴリズムの成功の一つの理由はMRUアルゴリズムがユーザに簡単に理解されることである.ユーザがMRUアルゴリズムを理解できる原因の一つは,MRUアルゴリズムが「最近使用されたメニュー」などの明示的な記述とともに実装されているからである.本研究では,我々はそのような明示的な知識が与えられない状況において,MRUアルゴリズムがどのように理解されるかを調べた.

人は仮説の集合を適当に制限するためにヒューリスティックス(帰納的バイアス)を用いていると考えられる.アルゴリズム理解においては,人は高々数十の事例からコンピュータのアルゴリズムを推論しなければならないので,アルゴリズム理解においても強力なバイアスが働いていると考えられる.本稿では,人のアルゴリズム理解の認知過程をモデル化するために,我々はバイアスの存在を仮定し,心理実験を通じて検証する.

マークマッチングゲームのスナップショット

マークマッチングゲームのスナップショット


異なる条件での勝率

異なる条件での勝率

学会発表

  • Kazunori Terada, Seiji Yamada and Akira Ito: An Experimental Investigation of Adaptive Algorithm Understanding, In Proceedings of the 35th annual meeting of the Cognitive Science Society (CogSci 2013), pp.1438-1443, Berlin, Germany (Aug. 2013)
  • 寺田 和憲,山田 誠二:適応アルゴリズム理解のための認知モデル,2013年度日本認知科学会第30回大会, pp.84-91 (2013.9)