HAI ヒューマンエージェントインタラクション


オンラインショッピングにおける商品推薦エージェントの外見と購買意欲の関係の実験的検証

梁 静(東京工業大学)
山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大)
寺田 和憲 (岐阜大学)

膨大な市場になっているインターネット上のオンラインショッピングでは,実店舗のように擬人化エージェントに商品推薦を行わせる試みが進みつつある.しかしながら,そのような商品推薦というタスクにはどのような外見を持ったエージェントが適しているのかはまだ十分には検証されていない.

本研究では,オンラインショッピングにおいて商品推薦を行う擬人化エージェントPRVA (Production )の外見をどのように設計すればよいかの知見を参加者実験により検証する.具体的には,6つの特徴的なPRVAと6つの商品を設定し,推薦文がまったく同じである同一条件下で,それらの組み合わせについて,購買意欲,アンケート調査を参加者実験によりシステマティックに調査する.そして,購買意欲について統計的検定を行うことで,PRVAの外見が購買意欲に重要な影響を与えることを示す.さらに,アンケート調査結果について,因子分析を適用して,得られた重要な因子により,購買意欲を促進するPRVAの外見の設計指針についての知見を示す.

6つのPRVA間での購買意欲の差

6つのPRVA間での購買意欲の差

アンケート調査結果の因子分析による2因子グラフ

アンケート調査結果の因子分析による2因子グラフ

文献

  • 梁 静,山田 誠二,寺田 和憲:擬人化エージェント・人間・システムによる商品推薦効果の実験的比較と行動デザイン,HAIシンポジウム2013, V-4 (2013.12)

人間の適応アルゴリズム理解の実験的解明

寺田 和憲 (岐阜大学)
山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大)

情報技術の進歩により人がコンピュータと協調的に仕事を行う機会が増えている.ユーザに対して適応するシステムである「ユーザ適用システム」を実現することは,HCI,HAI,人工知能の主要研究課題の一つであるが,そのようなシステムの設計指針は示されていない.また,人-コンピュータの協調作業において人がコンピュータのアルゴリズムをどのように理解するかについての認知モデルの研究は十分になされていない.

本研究の目的は,人–コンピュータ協調タスクにおいて,人がコンピュータのアルゴリズムを理解する際の認知過程をモデル化することである.そのために,最も簡単な人–コンピュータ協調タスクである協調記号合わせゲームを用いた.このゲームでは,コンピュータは人に適応する振舞いを生成し,人はその適応アルゴリズムを同定することを求められる.具体的には,最も簡単な適応アルゴリズムとして知られている MRU (most recently used)アルゴリズムを実験参加者がどのように理解するかを調べた.MRUアルゴリズムでは,コンピュータはユーザの最後の入力をそのまま出力する.MRUアルゴリズムは適応ユーザインタフェースを含む有用なインタラクティブソフトウエアを実現することに貢献してきた.MRUアルゴリズムの成功の一つの理由はMRUアルゴリズムがユーザに簡単に理解されることである.ユーザがMRUアルゴリズムを理解できる原因の一つは,MRUアルゴリズムが「最近使用されたメニュー」などの明示的な記述とともに実装されているからである.本研究では,我々はそのような明示的な知識が与えられない状況において,MRUアルゴリズムがどのように理解されるかを調べた.

人は仮説の集合を適当に制限するためにヒューリスティックス(帰納的バイアス)を用いていると考えられる.アルゴリズム理解においては,人は高々数十の事例からコンピュータのアルゴリズムを推論しなければならないので,アルゴリズム理解においても強力なバイアスが働いていると考えられる.本稿では,人のアルゴリズム理解の認知過程をモデル化するために,我々はバイアスの存在を仮定し,心理実験を通じて検証する.

マークマッチングゲームのスナップショット

マークマッチングゲームのスナップショット


異なる条件での勝率

異なる条件での勝率

学会発表

  • Kazunori Terada, Seiji Yamada and Akira Ito: An Experimental Investigation of Adaptive Algorithm Understanding, In Proceedings of the 35th annual meeting of the Cognitive Science Society (CogSci 2013), pp.1438-1443, Berlin, Germany (Aug. 2013)
  • 寺田 和憲,山田 誠二:適応アルゴリズム理解のための認知モデル,2013年度日本認知科学会第30回大会, pp.84-91 (2013.9)

ボーナス付きマッチングペニーゲームにおける人間からエージェントへの適応プロセスの解明

寺田 和憲 (岐阜大学)
山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大)

本研究では,人間とエージェントの利害が対立した状況を競合ゲームによってつくり出し,エージェントのオンラインでの行動戦略変化に人間がどのように適応するのかを調べた.まず,適応プロセスを利用フェーズと適応フェーズの二つのフェーズによってモデル化した.適応フェーズでは人間は自分自身の戦略を固定するのではなく,探査と利用を併用し,相手エージェントの戦略変化に適応する.利用フェーズでは,適応フェーズで獲得した相手の行動戦略モデルに従って搾取的に行動する.

さらに,適応速度に注目し,対人間の場合よりも対ロボットの場合のほうが適応速度が速いという仮説を導出した.モデルの妥当性と仮説の検証のために,ボーナス付きマッチングペニーゲームを用いた参加者実験を行った.実験の結果,相手の戦略変化に対し,探査と利用を併用した適応フェーズが存在することが確認された.また,対人間の場合よりも対ロボットの場合のほうが適応速度が速いことが確認された.

ボーナス付きマッチングペニーゲームのスナップショット

ボーナス付きマッチングペニーゲームのスナップショット


相手が人間かロボットかの違いによる適応速度の差

相手が人間かロボットかの違いによる適応速度の差

学会発表

  • 寺田 和憲,山田 誠二,伊藤 昭:ボーナス付きマッチングペニーゲームにおける人間からエージェントへの適応プロセスの解明,人工知能学会論文誌,Vol.27, No.2, pp.73-81 (Feb. 2012)
  • Kazunori Terada, Seiji Yamada, Akira Ito: Experimental Investigation of Human Adaptation to Change in Agent’s Strategy through a Competitive Two-Player Game, In Proceedings of the 30th Annual CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI 2012), pp.2807-2810, Austin, USA (May 2012)

周辺認知テクノロジーを応用したペリフェラル情報通知

山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大/東工大)
森 直樹(東京工業大学)
小林 一樹(信州大学)

現在,PC,モバイルPC,スマートフォンがオフィスや家庭で広く日常的に利用されており,それらの情報機器上では,電子メールの受信,電話の着信,アプリケーションソフトの更新などの様々な情報通知が行われている.これらの情報通知は,有益な情報の発生をユーザに伝える意味で重要であり,今後も情報機器および通知コンテンツの増加と共にますます増えていくと考えられる.しかし,このような情報を適切に通知する方法は十分に研究されておらず,現在のアプリケーションでは,単に情報通知が発生したタイミングで通知する方法がとられている.つまり,現状の情報通知はシステム側から一方的に行われ,通知のタイミング決定にユーザの作業状態が反映されることはない.そのため,頻繁に情報通知がユーザの作業中に割り込みをかけることによるタスク遂行の中断,再開負荷の増大が引き起こす,タスク遂行が阻害されるなどの負の効果が指摘されている.このような背景から,情報通知を適切に行うことは,割り込み可能性の研究として,HCIにおける重要な課題の一つとなっている.

適切な情報通知のためには,基本的にユーザのタスク遂行に干渉しない情報通知が必要であり,そのためにこれまで研究された方法として,ユーザが割り込みを受理可能なタイミングを推定し,そのときだけ通知を行うユーザ状態推定法とデスクトップ上でメインタスクのウインドウ近くにサブウインドウを配置して,そこで情報通知を並列的に表示するペリフェラルディスプレイに大別される.

情報通知に対するこれらのアプローチに対し,本研究ではユーザ状態推定を行わず,割り込み可能状態になった場合にユーザが自動的に情報通知に気づく方法である周辺認知テクノロジーPCT (Periphearal Cognition Technolgy) の枠組みを提案し,実際に視野ナローイングVFN(visual field narrowing)現象を利用したPCモニター上でのPCT実装型であるペリフェラル情報通知を構成し,実験的に評価する.具体的には,まず参加者実験により,VFNがPCモニター上でも生じることを実験的に確認し,その発生領域を同定することでモデル化する.次に,その領域内に通知を行うことでペリフェラル情報通知を実現し,その有効性を参加者実験により検証する.

ペリフェラル情報通知のアイコン

ペリフェラル情報通知のアイコン


VFNモデル

VFNモデル


実験タスクのスナップショット

実験タスクのスナップショット

学会発表

  • 山田 誠二,森 直樹,小林 一樹:周辺認知テクノロジーPCTによるユーザの作業に干渉しないペリフェラル情報通知,人工知能学会論文誌, Vol.30, No.2, pp.449-458 (Feb. 2015)
  • Seiji Yamada, Naoki Mori and Kasuki Kobayashi: Peripheral Agent: Implementation of Peripheral Cognition Technology, In Proceedings of the 31th Annual CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI 2013), Work-in-Progress (poster), pp.1701-1705, Paris, France (May 2013)

動きによるArtificial Subtle Expressionを用いたロボットの確信度表出

寺田 和憲 (岐阜大学)
山田 誠二 (国立情報学研究所/総研大)
小松 孝徳 (明治大学)
小林 一樹 (信州大学)
船越 孝太郎 (ホンダ・リサーチ・インスティテュート)
中野 幹生 (ホンダ・リサーチ・インスティテュート)

本研究では,ロボットがためらい行動によって確信度を表出するというASEの新たな実現形態であるモーションASEを提案した.通常の人間同士のインタラクションにおいて自信のなさが動きとして表出される「ためらい」に注目し,ためらいを「主モダリティに付随する動作の実行速度を低速化」と定義した.
ロボットの助言を参考にして左右どちらの箱に宝が入っているかを当てるゲーム繰り返す参加者実験を行い,参加者の方を振り返る速度を低下させるだけで,人間はロボットの確信度を低く見積もることが分かった.速度の違いによって信用度と推定確信度の違いが統計的に有意であったことから,本研究で提案するモーションASE が直感的かつ正確に伝達されたと結論付けた.
また,ためらいによる確信度の表出において,時間遅延だけによってもある程度の確信度を表出可能であるが,振り返りという動作を付与し速度を変化させることによってより明確に確信度を表出可能であることが分かった.
左下と右下の動画は,どちらかがためらいASEを実装したものである.ごらんになって,些細な違いがわかるだろうか?




Publications

  • 寺田 和憲,山田 誠二,小松 孝徳,小林 一樹,船越 孝太郎,中野 幹生,伊藤 昭:移動ロボットによるArtificial Subtle Expressionsを用いた確信度表出,人工知能学会論文誌,Vol.28, No.3, pp.311-319 (Apr. 2013)
  • Seiji Yamada, Kazunori Terada, Kasuki Kobayashi, Takanori Komatsu, Kotaro Funakoshi, and Mikio Nakano: Expressing a Robot’s Confidence with Motion-based Artificial Subtle Expressions, In Proceedings of the 31th Annual CHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI 2013), Work-in-Progress (poster), pp.1023-1028, Paris, France (May 2013)

ASE (Artificial Subtle Expressions): エージェントの内部状態を直感的に伝達する方法

小松孝徳(明治大学)
山田誠二(国立情報学研究所)
小林一樹(信州大学)
船越孝太郎((株) ホンダ・リサーチ・インスティチュート)
中野 幹生((株) ホンダ・リサーチ・インスティチュート)

人間同士のコミュニケーションにおける意味の伝達の多くは,発話による言語情報により明示的に行われるが,顔の表情,視線,身振りなどの非言語情報および音声の高さや大きさといったパラ言語情報,特にそれらの些細な変化が人間同士のコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしており,これらの情報はsubtle expressions と呼ばれる.
このような背景から,実際の人間に類似した情報表現によらず,エージェントや人工物から非常な単純な情報を表出することで,subtle expressionsと同様にその内部状態を人間に直感的に伝達することを目指し,Artificial Subtle Expression (ASE) を提案する.本研究ではまず,我々の一連の研究成果を踏まえた上でASEの満たすべき4つの要件(シンプル,補完性,正確さ,直観的)を定義する.そして,その要件に基づいて設計されたビープ音による情報表出が,ユーザに対してエージェントの内部状態を直感的に伝達できていたのか否かを検証することで,ASEの満たすべき要件の妥当性について確認する.

Beep ASE

Beep ASE

Two beep ASEs

周波数変化の違う2つのビープ音によるASE

Publications

  • 小松孝徳,山田誠二,小林一樹,船越孝太郎,中野幹生:Artificial Subtle Expressions: エージェントの内部状態を直感的に伝達する手法の提案,人工知能学会誌,Vol. 25, No. 6, pp.733-741 (Sep. 2010)
  • T. Komatsu, S. Yamada, K. Kobayashi, K. Funakoshi and M. Nakano: Proposing Artificial Subtle Expressions as an Intuitive Notification Methodology for Artificial Agents’ Internal States, In Proceedings of the Annual Meeting of the Cognitive Science Society (COGSCI-2010), pp.447-452, Portland, USA (Aug. 2010)
  • T. Komatsu, S. Yamada, K. Kobayashi, K. Funakoshi and M. Nakano: Artificial Subtle Expressions: Intuitive Notification Methodology of Artifacts, In Proceedings of the 28th Annual SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems (CHI-2010), pp.1941-1944, Atlanta, USA (Apr. 2010)

IIS 知的インタラクティブシステム


インタラクティブ制約付きクラスタリングにおける制約選択を支援するインタラクションデザイン

山田 誠二(国立情報学研究所/総研大/東工大)
水上 淳貴(東京工業大学)
岡部 正幸(県立広島大学)

本研究では,ユーザにクラスタリング結果を提示して,ペアワイズ制約を与えてもらい,制約付きクラスタリングを繰り返すインタラクティブ制約付きクラスタリングの枠組みにおいて,ユーザの能動学習を引き出すインタラクションデザインを提案した.具体的には,制約効果を顕在化するGUIとクラスタリング結果を複数視点から俯瞰することができるGUIの機能を導入し,システムを実装した.
制約効果の顕在化は,与えられた制約の影響を受けたデータを強調表示することでユーザに把握しやすくしている.また,複数視点の変更機能は,2次元表示する2軸を多次元尺度構成法の固有値の組み合わせで変化させることで,複数視点を切り替えることを可能にしている.実装したシステムを用いて,画像データのクラスタリングを対象とした参加者実験を行い,提案するGUIのないシステム,計算論的能動学習,能動学習なしシステムとのパフォーマンスの比較および能動学習戦略に関するアンケート調査を行った.その実験結果から,提案するGUIが人間の能動学習に効果があることを実験的に示した.そして,実験から得られた人間の能動学習の戦略,計算論的能動学習との関係について考察した.

GUI for constrained clustering.

制約付きクラスタリングの判定データ選択を支援するGUIのスナップショット

文献

  • 山田 誠二,水上 淳貴,岡部 正幸:インタラクティブ制約付きクラスタリングにおける制約選択を支援するインタラクションデザイン,人工知能学会論文誌,Vol.29, No.2, pp.259-267 (Feb. 2014)
  • Seiji Yamada, Junki Mizukami and Masayuki Okabe: Designing GUI for Human Active Learning in Constrained Clustering, In Proceedings of IUI 2013 Interactive Machine Learning Workshop, poster, 4 pages, Santa Monica, USA (Mar. 2013)
  • Masayuki Okabe and Seiji Yamada: An Interactive Tool for Human Active Learning in Constrained Clustering, Journal of Emerging Technologies in Web Intelligence, Vol.3, No.1, pp.20-27 (Feb. 2011)
  • Masayuki Okabe and Seiji Yamada: An Interactive Tool for Constrained Clustering with Human Sampling, In Proceedings of the International Workshop on Intelligent Web Interaction 2010 (IWI 2010), pp. 108-111, Toronto, Canada (Sep. 2010)

制約伝播による制約クラスタリングの効率化

岡部 正幸(豊橋技術科学大学)
山田 誠二(国立情報学研究所/総研大/東工大)

ユーザフィードバックにより与えられる制約が少数である場合に,効率的に実行可能である制約クラスタリングを開発している.基本的な戦略は,ペアワイズ制約を周辺のデータへ伝播させることにより,少数の制約を拡張して,それを用いて類似度行列の学習を行う.クラスタリング自体は,通常のk-means法により,学習された類似度行列をもちいて実行される.

通常よく用いられるMust/Cannotリンクによるペアワイズ制約をベースに,k個の近傍データにも同様の制約を伝播することで少数制約を拡張し,少数制約による制約クラスタリングを実現する.制約を充足する類似度の学習を行うため,制約の伝播および充足が半正定値計画による最適化問題に帰着される.そして,提案手法の有効性がいくつかのクラスタリングタスクで実験的に示される.

Constraints propagation.

Constraints propagation.

文献

  • Masayuki Okabe and Seiji Yamada: Learning Similarity Matrix from Constraints of Relational Neighbors, Journal of Advanced Computational Intelligence and Intelligent Informatics, Vol.14, No.4, pp. 402-407 (May. 2010)
  • Masayuki Okabe and Seiji Yamada: Clustering with Constrained Similarity Learning, In Proceedings of the International Workshop on Intelligent Web Interaction 2009 (IWI 2009), Milan, Italy, pp.30-33 (Sep. 2009)